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大阪地方裁判所 昭和59年(行ウ)8号 判決 1985年8月08日

原告

第一地所販売株式会社

右代表者

岡島米蔵

原告

第一地所株式会社

右代表者

岡島米蔵

右原告両名訴訟代理人

大橋武弘

被告

大阪府知事岸昌

右訴訟代理人

鎌倉利行

檜垣誠次

右指定代理人

森和男

外二名

主文

一  原告らの訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告がリバー産業株式会社に対し、別紙物件目録(一)に記載の土地につき、昭和五八年七月二一日付第四―九六号をもつてした都市計画法二九条による開発許可処分は無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  本案前の答弁

主文同旨

三  本案の答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告らの地位

原告らは、かねていづみが丘団地(約六万坪、一九万八三四七平方メートル、約五〇〇区画)、及び、東和苑(約二万坪、六万六一一五平方メートル、約二〇〇区画)を開発し、右開発地の中にある開発地専用道路(私道)として、原告第一地所販売株式会社(以下、「原告第一地販」という。)は別紙物件目録(二)の1ないし8に記載の各土地を、原告第一地所株式会社(以下、「原告第一地所」という。)は同目録(二)の9ないし11に記載の各土地(以下、右各土地を一括して、「原告らの私道」という。)を、それぞれ所有し、右開発地内に一部混在する第三者所有の私道と併せ、原告第一地販が、これら私道の維持管理を行い、また、同原告が、右私道開設とともに道路内に埋設された上下水道の排水管を所有しているものであるところ、右原告らの開発地は、後記開発許可処分にかかる開発地域に隣接しているため、後記開発行為により損害を被る立場にある者である。

2  本件許可処分の存在

訴外リバー産業株式会社(以下、「訴外会社」という。)は、原告らが開発した前記いづみが丘団地の南側で、東和苑の東側に位置する別紙物件目録(一)に記載の土地を取得したうえ、これを宅地造成し、建物を建築して第三者に販売するべく、昭和五八年、被告に対し、都市計画法二九条に基づき、右開発地域につき開発行為の許可申請をなし、被告は、開発許可番号五八年七月二一日第四―九六号を以つて右申請を許可した(以下、これを「本件許可処分」という。)。

3  本件許可処分の無効事由

本件許可処分は、以下に述べるとおり、訴外会社の開発許可申請が都市計画法三〇条二項、三三条一項二号ないし四号、一四号、同法施行令二五条一号、四号、二六条二号、同法施行規則一七条三号の要求する開発許可基準を充足せず、また、その申請手続が右法令に違反しているにもかかわらず、これを許可した違法な瑕疵があり、その瑕疵は、右法令に照らして重大かつ明白であるから、無効というべきである。すなわち、

(一) 都市計画法三三条一項二号によれば、開発区域内の主要な道路は、開発区域外の相当規模の道路に接続することが定められ、同法施行令二五条一号によれば、道路は、開発区域外の道路の機能を阻害することなく、かつ、開発区域外にある道路と接続する必要があるときは、当該道路と接続してこれらの道路の機能が有効に発揮されるように設計されていることが要求され、同施行令二五条四号によれば、開発区域内の主要な道路は、開発区域外の幅員九メートル(主として住宅の建築の用に供する目的で行なう開発行為にあつては、六・五メートル)以上の道路に接続していることが要求されている。

しかるに、本件開発地域は、前記いづみが丘団地及び、東和苑に接続、隣接しており、同団地、及び、同苑内の道路に本件開発地域内の道路を接続する以外に公道へ出る道路はないから、いづみが丘団地、及び、東和苑内の原告ら、及び、第三者所有の私道につき、原告らの使用許諾を得たうえで、右私道に本件開発地域内の道路を接続しなければ、右都市計画法三三条一項二号、同法施行令二五条一号に規定する基準に適合しないというべきところ、原告らは、訴外会社に対し、このような利用許諾を与えてはいない。また、本件開発地域内の道路をいづみが丘団地、及び、東和苑内の道路に接続することにより、同団地、及び、同苑内の道路の機能が阻害されるか否かの検討がなされていないから、都市計画法施行令二五条一号に規定する技術的細目を充足していない。更に、いづみが丘団地内の道路の幅員は、四ないし五メートルであり、東和苑内の道路の幅員は、五メートルであるから、都市計画法施行令二五条四号に規定する被接続道路の幅員に充たない。

(二) 都市計画法三三条三号、四号には給水施設や排水施設について規定があり、同法施行令二六条二号によれば、開発区域内の排水施設は、下水を有効かつ適切に排出できるように、下水道、排水管その他の排水施設、又は、河川その他の公共の水域、もしくは、海域に接続していることが要求されている。

しかるに、本件開発地域の上下水道を給排水するには、いずみが丘団地、及び、東和苑内の私道地下、及び、そこに埋設された排水管などを利用するしか方途がないから、原告らから、右私道地下、及び、そこに埋設された排水管の使用許諾を得たうえで、右排水管に本件開発地域の排水管を接続し、あるいは、右私道の地下に上下水道を設置しなければ、前記法令に規定する基準に適合しないというべきところ、原告らは、訴外会社に対し、このような利用許諾を与えていない。

(三) 都市計画法三三条一項一四号によれば、当該開発行為に関する工事をしようとする土地の区域内の土地につき、当該開発行為の施行又は当該開発行為に関する工事の実施の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を得ることが要求され、同法三〇条二項により、開発許可申請書には、建設省令で定める図書を添付することが要求され、右建設省令である都市計画法施行規則一七条一項三号により、同法三三条一項一四号の同意を得たことを証する書類を右申請書に添付することが要求されている。

本件開発地域についての訴外会社の開発行為が、都市計画法、及び、同法施行令に規定する開発基準に適合するには、前記(一)ないし(三)に記載のとおり、いづみが丘団地、及び、東和苑内の私道の通行、堀削、拡張が必要であり、そのために、原告らのこれに関する同意が法令上要求され、開発許可申請書に右同意を証する書類の添付が要求されているが、原告らは、訴外会社に対し、右のような同意を与えていない。

(四) 以上によれば、本件開発地域の開発許可申請は、右開発について原告らの同意を得ておらず、したがつて、明らかに前記各法令に規定する開発許可基準を充足せず、また、所定の申請手続要件を具備していないものというべきである。しかるに、被告は、右の事情を知りながら、また、原告第一地販から昭和五八年五月一二日付で提出された訴外会社による本件開発地域の開発許可申請は、法令に違反するものであるから許可されてはならない旨の上申書を無視し、原告らの意見を聞こうともせず、また、これを聞く機会も設けず、本件許可処分をした。このような本件許可処分は、都市計画法三〇条二項、三三条一項二号、三号、四号、一四号、及び、同法施行令二五条一号、四号、二六条二号、同法施行規則一七条三号に違反し、かつ、その違反は重大かつ明白であるから、無効というべきである。

4  原告らが被る損害

原告らは、いづみが丘団地、及び、東和苑の中に前記私道を所有し、右私道と第三者所有の私道と併せ、これらを管理し、その地下に埋設された上下水道配管設備を所有している他、右団地、及び、右苑の中に、販売中の土地、及び、未整地の土地、及び、池(石谷池)を所有しており、右未整地の土地については、近くこれを整地してその上にマンションを建築すべく計画しており、石谷池については、これを埋め立てて宅地化し販売する計画を有している。

そこで、仮に、本件許可処分が放置されれば、訴外会社は、本件開発地域を宅地化する工事に際し、前記私道、及び、上下水道等の施設を無断で、あるいは、原告らの意思に反してでも利用する恐れがあり、かくては、右私道に車輛が溢れ、かつ堀り返され、収拾のつかない事態となることが予測され、原告らが販売中の宅地には買手がつかなくなり、前記未整地や石谷池を整地して宅地化しても販売できなくなる恐れがある。

よつて、原告は、被告との間において、本件許可処分が無効であることの確認を求める。

二  本案前の被告の主張

1  本件許可処分は、一般的抽象的な処分にすぎず、それ自体、原告らに対する具体的な権利侵害を伴うものではないから、抗告訴訟の対象となる処分には当らないというべきであり、本件訴えは却下されるべきである。

すなわち、本件許可処分は、訴外会社に対し、その計画した開発行為をなしうる資格を付与し、あるいは、訴外会社の計画を承諾したというに留まるものであつて、訴外会社が、現実に宅地造成や建物等の建築、道路、上下水道工事等の具体的な行為をするためには、本件許可処分とは別に、その行為の種類、性質等に応じ、建築基準法、道路法、下水道法等多数の関係法令の規制を受け、これらの法令所定の許可、確認等を受けなければならないうえ、私法上の行為も必要とするものである。したがつて、原告らが主張するその所有、及び、管理にかかる道路、上下水道等に関する権利侵害に対する救済は、本件許可処分を前提とする各別の処分に対する救済手続や私法上の権利救済をもつて足りるのである。

2  次に、原告らは、本件許可処分の無効確認を求める原告適格を欠如するから、本件訴えは却下されるべきである。すなわち、

(一) 都市計画法二九条に規定する開発許可制度の趣旨は、都市の周辺部における無秩序な市街化を防止するため、都市計画区域を市街化区域と市街化調整区域とに区域区分した目的を担保する手段として、開発行為を許可制にかからしめることとし、また、現在宅地の造成が公共施設の整備を伴わないものが少くないため、許可制により、必要な施設の整備を義務づけて、良好な都市環境と都市機能を計画的に形成するという公共の利益を図ることを目的とするもので、右開発許可処分によつて、開発地域周辺の土地所有者等の権利若しくは具体的な利益を直接侵害するものでないことは明らかであり、また、開発許可の基準を定める同法三三条、及び、同法施行令は、右のような公益目的のために規定されたものであつて、周辺地域の者の個別的権利ないし利益を保護しているものではない。したがつて、原告らは、行訴法三六条前段に該当する者とはいえないから、原告適格を欠如するというべきである。

(二) 都市計画法二九条に規定する開発許可制度の趣旨が、前叙のとおりであるから、本件開発地域周辺における原告らの私道、上下水道施設等の無断使用による被害救済については、本件許可処分の存否、効力の有無とは別個に、原告と訴外会社との間の工事施工上の問題として、現在の私法上の法律関係に基づき解決をし、その目的を達成することができる。したがつて、他に救済手段があるのであるから、本件訴えは、行訴法三六条後段に規定する補充性を欠如するものといわなければならない。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は知らない。

2  同2の事実のうち、訴外会社が、昭和五八年に、被告に対し、都市計画法二九条の規定に基づき、本件開発地域につき開発行為の許可申請をしたこと、被告が開発許可番号五八年七月二一日第四―九六号を以つて右申請を許可したことは認めるが、その余の事実は知らない。

3(一)  同3の冒頭部分は争う。

(二)  同3の(一)ないし(三)の事実のうち、都市計画法三〇条二項、三三条一項二号、三号、四号、一四号、同法施行令二五条一号、四号、二六条二号、同法施行規則一七条三号に原告ら主張の規定のある点を除き、その余の事実は争う。

(三)  同3の(四)の事実のうち、原告第一地販が、被告に対し、昭和五八年五月一二日付で上申書を提出したことは認めるが、その余の事実は否認する。

4  同4の事実は否認する。

四  本案に関する被告の主張

1  被告は、訴外会社から、昭和五八年五月一一日付で、都市計画法二九条に基づく本件開発地域の開発許可申請を受けたが、原告第一地販から代理人弁護士を通じ、翌五月一二日付で右許可申請に関する上申書(乙第一号証)の提出を受けた。そこで、被告は、関係者から事情を聴取することにしたが、同年六月に入つて、原告第一地販は、訴外会社に対し、前記上申書を速やかに取下げる旨を約するとともに、原告らの私道通行については異議がないことを確約した書面(乙第三号証)を提出した。その後、原告第一地販は、被告に対し、前記代理人弁護士と連名で前記上申書の取下書(乙第四号証)を提出した。被告は、原告第一地販から取下書が提出されたことを確認した後、各種関係法令に基づき協議を行い、昭和五八年七月二一日、本件開発地域の開発許可処分をした。

以上のように、原告第一地販は、本件開発許可申請手続の中で、一旦上申書を取下げ、私道通行について同意を与えておきながら、半年後に本件訴訟を提起したものであり、その行動は理解に苦しむものである。また、右の経緯については、原告第一地販と代表者が同一人である原告第一地所も当然知悉しているはずである。

2  本件開発地域における上下水道の設置は、以下に述べるとおり、原告らの利害と全く関係がない。すなわち

(一) 開発計画によると、本件開発地域からの下水は、同地域の南東部から地域外へ放流する計画になつている(乙第五号証)から、その下水道施設が、前記いづみが丘団地、及び東和苑を通ることはなく、また、同地の既設下水道管と接続されることはない。

(二) 上水道施設は、都市計画法三二条に規定する公共施設に含まれないばかりか、本件の開発計画においては、二八七四番一の土地を通して阪南町管理の給水施設と接続することになつている。尚、右二八七四番一の土地は、訴外トーヨド建設の名義になつているが、都市計画法三二条、三九条、四〇条により、当然に阪南町へ移管されるところである。

五  被告の本案前の主張に対する原告らの反論

1  本件許可処分は、抗告訴訟の対象になるというべきである。

すなわち抗告訴訟の対象となる処分は、行政庁の公権力の行使としてされる行為をいうのであるが、本件許可処分は、地方公共団体の機関(長)である被告によつてなされたものであつて、法の認めたその優越的地位に基づき法の執行としてする権力的な意思活動として、相手方の意思如何に拘らず、一方的にその意思決定をし、その結果について、相手方に受忍を強制し得るという法律効果をもつた行為であるから、本件許可処分は、抗告訴訟の対象となる行政処分である。なお、このことは、本件許可処分については、不服申立取消訴訟に関する規定が設けられていることからも明白であるというべきである(都市計画法五〇条ないし五二条参照)。

また、本件許可処分は、抗告訴訟の対象となるか否かで問題となる。いわゆる一般処分ではない。一般処分とは、具体的事実に関し、不特定多数の者を対象とする具体的命令を内容とした行為(例えば、道路通行禁止、禁猟区の設定行為、農地買収計画等)をいうのであるが、本件許可処分は、開発行為をしようとする特定の業者である訴外会社が、被告に対し、特定の開発区域を定めて開発行為の許可申請をなし、右申請を受けた被告が、訴外会社と事前の打合せの末許可したものであるから、決して一般処分ではない。

仮に、一般処分であつても、それが一般処分であることの一事をもつて、抗告訴訟の対象から除外されるものではなく、それが個人の権利ないし利益に直接、具体的な影響を及ぼす場合には、抗告訴訟の対象となるものというべきである。

2  原告らには、以下に述べるとおり、原告適格があるというべきである。すなわち、

(一) 行訴法三六条に定める無効確認訴訟には、予防訴訟的機能があることが一般に認められているから、同条前段の「当該処分……に続く処分により損害を受けるおそれのある者」が訴えを提起する場合には同条後段の消極的要件を不要と考えるべきであるところ、本件許可処分については、今後、右許可処分の公定力を前提に、宅地造成法、建築基準法、道路法、下水道法等々の法令に基づく後続処分、又は、公権力の行使が予定されている。そして、右のような後続処分がなされた場合、原告らの被る被害や、原告らの権利、及び法律上の利益に対する影響は、いよいよ現実のものとなり、かかる結果となつてしまつてからでは取り返しのつかない事態となる。したがつて、後続処分、又は、本件許可処分後の公権力行使以前である現段階において、本件許可処分の無効確認を求めるにつき、原告らに原告適格が認められるべきである。

(二) 仮に、原告らの地位が、行訴法三六条前段の「当該処分……に続く処分により損害を受けるおそれのある者」に該当しないとしても、同条前段の「その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」に当り、且つ、同条後段の「……当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」に該当するというべきである。すなわち

(1) 本件許可処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えが仮に可能であつたとしても、右訴えでは、本来本件許可処分のために被つている原告らの不利益を排除することはできない。そもそも、現在の法律関係に関する訴えにより、その前提問題として本件許可処分の効力を争つても(争点訴訟)、判決の拘束力は被告に及ばず、また、行訴法四四条の制約があるため、民訴法上の仮処分をすることもできず、更に、取消訴訟における執行停止制度の準用規定を欠いているため、執行停止による救済を受けることもできない。したがつて、現在の法律関係に関する訴えに還元できるとしても、その訴えによつては「目的」を達成することができない。

(2) 加えて、本件許可処分の無効を前提とした訴えが、当事者訴訟として行政事件訴訟法四条、三九条以下に定める要件を充足し、その意義、性質及び訴訟が当事者訴訟として許される訴えとして成立する場合があるか否かは甚だ疑問である。なお、建築基準法、道路法、下水道法等には、当事者訴訟を成立させる素地を欠いている。

(三) 以上、いずれにしても、原告らには、本件許可処分の無効確認を求める原告適格がある。

六  本案に関する被告の主張に対する原告らの認否及び主張<省略>

七  原告らの主張に対する被告の認否<省略>

第三  証拠関係<省略>

理由

一被告が、訴外会社の申請に基づき、訴外会社に対し、開発許可番号五八年七月二一日第四―九六号を以つて本件許可処分をしたことは、当事者間に争いがない。

二被告は、本件許可処分は抗告訴訟の対象となる行政庁の処分に当らない旨主張をするので、先ずこの点から検討する。

抗告訴訟の対象となる行政処分とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当る行為であつて、行政庁がその優越的な地位に基づき、権力的な意思活動として行う行為で、かつ、その行為が個人の法律上の地位ないし権利関係に何らかの影響を与えられるような性質のものをいうと解すべきところ、都道府県知事が都市計画法二九条に基づいてなす開発許可の決定は、行政庁である都道府県知事が、その優越的な地位に基づき、権力的な意思活動としてするものと解せられるし、また、右開発許可決定がなされると、開発区域内の土地においては、建築物を建築し、又は特定工作物を建築してはならないのであるから、(同法三七条、四二条)、右開発地域内の土地利用が制限され、個人の法律関係に影響があるから、抗告処分の対象となる行政処分というべきである。そして、このことは、都市計画法五〇条ないし五二条において、同法二九条の開発許可処分に対しては、審査請求、再審査請求、さらには、行政訴訟による取消の訴え等の不服申立の方法が認められているところからも明らかであるというべきである。

被告は、本件許可処分は、一般的抽象的な処分であつて、それ自体原告らに対する具体的な権利侵害を伴うものではないから、抗告訴訟の対象となる処分ではないと主張するが、本件許可処分は、原告らに対してなされたものではなく、訴外会社に対してなされたものであるから、本件処分により原告らに対する具体的な権利侵害がないからといつて、本件許可処分の処分性を否定することはできず、原告らに対する権利侵害の有無は、訴外会社に対してなされた本件許可処分について、第三者である原告らが、その取消ないし無効確認を求める原告適格があるか否かの判断をするについて、その影響があるに過ぎないのである。なお、本件許可処分が抗告訴訟の対象とならない一般的抽象的処分でないことは、前段に述べたところから明らかというべきである。よつて、右の点に関する被告の主張は失当である。

三そこで、次に、原告に、本件許可処分の無効確認を求める原告適格があるか否かについて検討する。

(一)  訴えをもつて、行政処分の取消又は無効確認を求め得る原告適格を有する者は、当該処分の取消又は無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者であつて(行訴法九条、三六条)、当該処分により、法的に保護された利益を侵害された者に限られ、右法的に保護された利益の侵害を受けない者には、処分の取消又は無効確認を求める原告適格はないと解すべきである。

(二)  これを本件についてみるに、<証拠>によれば、原告らは、かねて本件開発地域に接して、いづみが丘団地、及び東和苑を開発し、右開発地域内にある開発地専用道路(私道)として、原告第一地販が別紙物件目録(二)の1ないし8に記載の各土地を、原告第一地所が同目録(二)の9ないし11に記載の各土地を所有し、右開発地内に一部混在する第三者所有の私道を併せ、原告第一地販が、これら私道の維持管理を行い、また、同原告が、右私道内に埋設された上下水道施設を所有し、更に右開発地内に未整地、及び池(石谷池)を所有していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)  ところで、原告らは、本件許可処分により、訴外会社は、本件開発地域内の土地を宅地化するに際し、原告らの所有し管理する前記私道、上下水道の施設を無断で、あるいは、原告らの意思に反しても利用する虞れがあり、かくては、右私道に車輛が溢れ、かつ、私道を堀り返され、収拾のつかない事態となることが予測され、原告らが販売中の宅地には買手がつかなくなり、未整地や石谷池を整地して宅地化しても、販売できなくなる虞れがあるから、原告には、本件許可処分の無効確認を求める原告適格があると主張している。

しかしながら、本件許可処分がなされたからといつて、他に特段の主張立証のない本件においては、本件開発区域に隣接するいずみが丘団地及び東和苑の中にある原告らの所有し又は管理する私道や上下水道設備を、被告において、当然に使用し得る法律上の権利が生ずるものとは認め難い。本件許可処分により、被告が、本件開発地域内の土地の整地をして宅地化するに当り、いづみが丘団地や東和苑内にある原告らの所有し管理する私道や上下水道設備を使用するためには、勿論改めて原告らの承諾を得ることが必要であつて、原告らの右承諾がない限り、原告らの所有し管理する私道や上下水道設備を使用することはできないのであり、そのために、本件開発区域内の開発ができなくなつても、法律上は止むを得ないことである。

そして、他に本件許可処分により、原告らが、本件開発区域に隣接するいづみが丘団地や東和苑内の土地や、私道、上下水道設備等の利用をするにつき、法律上の制約を受けることについては、何らの主張立証もないから、結局、原告らは、本件許可処分により、その法律上保護された利益の侵害を受けることはないというべきである。

なお、原告ら主張の如く、訴外会社が、原告らの所有し管理する私道や、上下水道施設を、原告らに無断で利用する虞れがあるとしても、右は事実上の行為(不法行為)であるというべきであるから、これを理由に、本件許可処分により、原告が法的に保護された利益を侵害されるものとは到底解し難く、したがつて、右のことから、原告らに本件許可処分の無効確認を求める原告適格を認めることのできないことは勿論である。

よつて、右の点に関する原告らの主張は、失当である。

(四)  そうとすれば、原告らには、本件許可処分の無効確認を求める原告適格はないというべきである。

四よつて、原告らの本訴請求は、原告適格を欠く不適法な訴えであるから、その余の点について判断するまでもなく、これを却下し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条、を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官後藤 勇 裁判官高橋 正 裁判官村岡 寛)

物件目録(一)、(二)<省略>

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